通常、ウイルスが原因の胃腸炎では、便に血が混じることは稀です。もし、下痢と共に明らかな血便(便器が赤く染まる、イチゴジャムのような便が出るなど)が見られた場合、それは単なる胃腸炎ではなく、より専門的な対応が必要な病気のサインである可能性を考えなければなりません。このような症状で受診すべき診療科は、迷わず「消化器内科(胃腸科)」です。消化器内科は、消化管の出血に対する診断と治療のスペシャリストです。血便の原因を特定するためには、便の培養検査や、場合によっては大腸内視鏡検査(大腸カメラ)が必要になることがありますが、これらの専門的な検査をスムーズに行えるのが消化器内科の強みです。では、血便を伴う胃腸炎にはどのような原因が考えられるのでしょうか。まず挙げられるのが、「出血性大腸炎」を引き起こすタイプの細菌性胃腸炎です。代表的な原因菌として、カンピロバクターやサルモネラ、そして特に注意が必要なのが、腸管出血性大腸菌(O157など)です。これらの細菌は、腸の粘膜に強い炎症を引き起こして出血させるため、血便や激しい腹痛、発熱を伴います。特にO157は、溶血性尿毒症症候群(HUS)という重篤な合併症を引き起こし、腎不全や脳症に至る危険性があるため、迅速な診断と適切な管理が不可欠です。また、細菌感染以外にも血便の原因はあります。例えば、「虚血性腸炎」は、何らかの原因で大腸への血流が一時的に悪くなることで、腸の粘膜が炎症を起こし、突然の腹痛と血便をきたす病気です。高齢者や動脈硬化のある方に多く見られます。さらに、症状が長引く場合は、「炎症性腸疾患(IBD)」である潰瘍性大腸炎やクローン病の可能性も考慮しなければなりません。これらは、免疫の異常によって腸に慢性的な炎症が起こる難病で、血便や下痢、腹痛を繰り返します。これらの病気は、いずれも専門的な診断と治療が必要であり、放置すると重症化するリスクがあります。たかが下痢と軽視せず、便に血が混じっていたら、それは消化管からの危険信号と捉え、速やかに消化器内科の扉を叩くことが、自分の体を守るための最も重要な行動です。