恋人の健一が、「なんだか風邪が治らないんだ」とこぼし始めたのは、もう3週間も前のことでした。最初は、いつものように市販の風邪薬を飲んで仕事に行っていましたが、37度台の微熱と、コンコンという乾いた咳だけが、しつこく続いていました。食欲はあるし、見た目も普段と変わらないため、私も彼自身も「仕事が忙しくて、疲れが溜まってるんだろうね」と、あまり深刻に考えていませんでした。しかし、週末になっても彼の体調はすっきりしません。むしろ、夜になると咳き込む回数が増え、眠りが浅くなっているようでした。「大丈夫?」と聞いても、彼はいつも「大丈夫、大丈夫。ただの風邪だよ」と笑うばかり。男性特有の、自分の弱さを見せたくないという気持ちが、彼を頑なにさせているのかもしれませんでした。私が「これはおかしい」と強く感じたのは、ある日、二人で駅の階段を上っていた時です。彼は、たった数十段の階段を上っただけで、肩で息をし、「ハァ、ハァ」と息を切らしていたのです。普段、体力には自信がある彼が見せた、明らかな息切れ。そして、その顔色は、いつもより少し青白いように見えました。その瞬間、私の頭に、以前テレビで見た「歩ける肺炎」という言葉がよぎりました。私はその夜、真剣な顔で彼に言いました。「お願いだから、病院に行ってほしい。あなたの咳、もう3週間も続いてるよ。それに、今日の息切れは普通じゃなかった。ただの風邪じゃないかもしれない。もし肺炎だったら、大変なことになるんだよ」と。私の必死の剣幕に、彼もようやく事の重大さを感じてくれたのか、翌日、しぶしぶ呼吸器内科を受診してくれました。結果は、私の心配した通り「マイコプラズマ肺炎」でした。レントゲンには、肺に白い影がはっきりと写っていました。医師からは、「ここまでよく我慢しましたね。もう少し遅かったら、入院が必要になるところでした」と言われたそうです。幸い、処方された抗生物質で彼は無事に回復しましたが、あの時、私が強く受診を勧めなければどうなっていたかと、今でもぞっとすることがあります。パートナーの「大丈夫」という言葉を鵜呑みにせず、客観的な症状の変化に気づき、時には毅然とした態度で健康を気遣うこと。それもまた、愛情の形なのだと、深く考えさせられた出来事でした。

つらい口内炎と喉の痛み。大人の手足口病の食事療法

大人の手足口病で、多くの人を苦しめるのが、口の中や喉の奥にできる、無数の痛みを伴う水ぶくれと口内炎です。その痛みは非常に激しく、食事を摂ること、さらには水分を補給することさえも困難にし、体力の消耗と脱水症状のリスクを高めます。このつらい時期を乗り切るためには、栄養を確保しつつ、いかに口内の痛みを刺激しないか、という食生活の工夫が極めて重要になります。まず、大原則として「刺激物は徹底的に避ける」ことです。香辛料の効いた辛いもの、レモンや酢の物などの酸味が強いもの、塩辛いものは、炎症を起こした粘膜に直接的なダメージを与え、激痛を引き起こします。これらは、症状が完全に治まるまで、絶対に口にしないようにしましょう。次に、食べ物の「温度」と「硬さ」に細心の注意を払います。熱すぎるスープや飲み物は、口内を刺激し、痛みを増強させます。必ず人肌程度に冷ましてから口にしましょう。一方で、アイスクリームやシャーベット、冷たいゼリーなどは、口の中を冷やすことで痛みを麻痺させる効果があり、喉ごしも良いため、痛みが強い時のカロリー補給として非常に有効です。また、せんべいやクッキー、揚げ物などの硬い食べ物や、パンの耳のようにパサパサしたものは、粘膜を傷つける可能性があるため避けてください。食事の形態は、おかゆや雑炊、ポタージュスープ、茶わん蒸し、豆腐、プリン、ヨーグルトといった、やわらかく、あまり噛まなくても飲み込めるものが中心となります。野菜や肉、魚なども、ミキサーにかけてペースト状にすれば、栄養バランスを保ちながら摂取しやすくなります。水分補給は、脱水を防ぐために最も重要ですが、一度にたくさん飲むと痛みがつらいため、ストローなどを使い、少量ずつ、こまめに飲むことを心がけましょう。飲み物は、水や麦茶、牛乳、冷ました野菜スープなどがおすすめです。オレンジジュースなどの柑橘系のジュースは、酸味が強いため避けてください。このように、食事の内容と形態を工夫することで、口内の痛みを最小限に抑え、回復に必要なエネルギーと栄養を確保することが、つらい症状からの早期脱出に繋がります。

子供からもらった手足口病。ある父親の壮絶な記録

その夏、4歳になる娘が、保育園で流行っていた手足口病にかかった。幸い、娘の症状は軽く、手のひらに数個の発疹と、少し口を痛がる程度で、数日で元気に走り回るようになった。「子供の夏風邪なんて、こんなものか」。父親である俺(38歳)は、正直、高を括っていた。本当の悪夢が、数日後に自分を襲うことになるとも知らずに。始まりは、全身を襲う悪寒だった。真夏にもかかわらず、ガタガタと震えが止まらない。体温は一気に39度を超え、インフルエンザのような関節痛で、ベッドから起き上がることすらできなかった。病院では「夏風邪」と診断されたが、翌日、俺は自分の体に起きたさらなる異変に愕然とした。手のひらと足の裏に、無数の赤い斑点が現れ、それがみるみるうちに水ぶくれに変わっていったのだ。痛みは、尋常ではなかった。足の裏は、まるで熱した砂利の上を裸足で歩いているかのよう。手のひらは、スマホを握ることはおろか、箸を持つことさえできない。そして、追い打ちをかけるように、口の中が地獄と化した。舌、歯茎、喉の奥まで、数えきれないほどの口内炎ができ、唾を飲み込むだけで激痛が走った。食べられない、飲めない、眠れない。あまりの痛さと辛さに、情けないことに、妻の前で涙をこぼしてしまった。再受診の結果、診断は「手足口病」。娘から感染したのだろうとのことだった。特効薬はなく、ただ痛みが過ぎ去るのを待つしかない。その言葉に、俺は絶望的な気持ちになった。妻は、そんな俺のために、食事をミキサーにかけて流動食にし、ストローで少しずつ飲ませてくれた。彼女の懸命な看病がなければ、俺は脱水症状で入院していたかもしれない。完全に社会復帰できるまで、実に3週間近くを要した。娘の軽い症状とは比べ物にならない、壮絶な闘病だった。この経験は、俺に二つの教訓をくれた。一つは、大人の手足口病を絶対に甘く見てはいけないということ。そしてもう一つは、病気の時に寄り添ってくれる家族のありがたさだ。

手足口病とヘルパンギーナ。大人が注意すべき夏風邪の違い

夏になると、高熱や喉の痛みを伴う、いわゆる「夏風邪」が流行します。その代表格として知られるのが、「手足口病」と「ヘルパンギーナ」です。どちらも同じエンテロウイルス属のウイルスによって引き起こされることが多く、子供に多い感染症ですが、大人も感染し、重症化しやすいという共通点があります。症状も似ているため混同されがちですが、その特徴にはいくつかの違いがあり、それを見分けることは、自分の状態を正しく理解する上で役立ちます。まず、最も大きな違いは、「発疹や水ぶくれが現れる場所」です。その名の通り、「手足口病」は、主に手のひら、足の裏、そして口の中に発疹や水ぶくれが現れます。ひじや膝、お尻の周りにまで広がることもあります。一方、「ヘルパンギーナ」の症状は、基本的に「口の中(喉の奥)」に限定されます。口蓋垂(のどちんこ)の周りや、上顎の奥の粘膜(軟口蓋)に、赤く縁取られた小さな水ぶくれ(小水疱)が複数できるのが典型的な特徴です。手や足に発疹が出ることはありません。次に、口の中の症状の「痛み」にも、若干の違いが見られることがあります。どちらも強い痛みを伴いますが、手足口病の場合は、水ぶくれが破れて広範囲に口内炎が多発するのに対し、ヘルパンギーナは、喉の奥に限局した水ぶくれによる、ピンポイントながらも焼けるような激しい痛みが特徴的です。また、発熱の傾向も少し異なります。ヘルパンギーナは、突然39~40度の高熱が出ることが多いのに比べ、手足口病は、発熱しないケースから高熱が出るケースまで、様々です。ただし、大人が感染した場合は、どちらも高熱を伴うことが多いとされています。治療法については、どちらもウイルス性疾患であるため、特効薬はなく、症状を和らげる対症療法が中心となります。解熱鎮痛剤や、口内炎に対する薬を使用し、十分な水分補給と休養をとって、自然回復を待つことになります。このように、発疹の場所をよく観察することが、この二つの病気を見分ける最大のポイントです。しかし、どちらもつらい症状を引き起こすことに変わりはありません。高熱と、口や喉の痛みを伴う水ぶくれに気づいたら、自己判断せず、内科や耳鼻咽喉科を受診し、正確な診断を受けるようにしましょう。