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咳喘息という病気、何科で診てもらう?
咳は止まらないのに、喘息特有の「ゼーゼー」「ヒューヒュー」という喘鳴(ぜんめい)や呼吸困難はない。このような、長期間にわたって乾いた咳だけが続く症状は、「咳喘息(せきぜんそく)」の可能性があります。咳喘息は、気管支喘息の一歩手前の状態とも考えられており、気道の慢性的な炎症が原因で、様々な刺激に対して気道が過敏になって咳発作を引き起こします。放置すると、約3割の人が本格的な気管支喘息に移行するとも言われており、早期に適切な診断と治療を受けることが非常に重要です。では、この咳喘息を疑った場合、何科を受診すれば良いのでしょうか。咳喘息の診断と治療においても、専門となるのは「呼吸器内科」と「アレルギー科」です。一般的な内科でも、咳止めの薬などが処方されることはありますが、咳喘息の根本的な原因である気道の炎症を抑える治療は、専門医でなければ難しい場合があります。咳喘息の診断は、特徴的な症状の問診が基本となります。特に、「夜間から明け方にかけて咳が悪化する」「季節の変わり目に症状が出やすい」「会話や電話、運動、冷たい空気の吸い込み、タバコの煙などがきっかけで咳が出る」「風邪薬や一般的な咳止めが効かない」といった点は、咳喘息を強く疑わせる所見です。診断を確定するためには、気管支拡張薬(気管支を広げる薬)の吸入を行い、咳症状が改善するかどうかを見る検査が行われることがあります。この検査で咳が著しく改善すれば、咳喘息である可能性が非常に高くなります。咳喘息の治療の基本は、気管支喘息と同様に「吸入ステロイド薬」です。これは、気道の炎症を根本から抑えるための最も重要な薬です。咳症状がなくなったからといって自己判断で吸入をやめてしまうと、炎症が再燃し、再び咳が出始めたり、本格的な喘息へと移行してしまったりするリスクがあります。医師の指示に従い、一定期間、根気よく治療を続けることが大切です。2週間以上続く原因不明の咳に悩んでいる方は、「ただの風邪の残り」と軽視せず、一度、呼吸器内科やアレルギー科といった専門の医療機関を受診することを強くお勧めします。
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費用だけじゃない、関節リウマチが生活に与える影響
関節リウマチと診断された時、多くの人がまず心配するのは、直接的な「治療費」という金銭的な負担です。しかし、この病気が生活に与える影響は、病院の窓口で支払う費用だけにとどまりません。目に見えにくい様々な「間接的なコスト」や「生活の変化」にも目を向けておく必要があります。まず考えられるのが、「交通費」です。関節リウマチの治療は、定期的な通院が不可欠です。特に専門医のいる病院が遠方にある場合、その往復にかかる交通費は積み重なるとかなりの額になります。また、関節の痛みやこわばりによって、これまで利用していた公共交通機関での移動が困難になり、タクシーを利用せざるを得なくなるケースもあるでしょう。さらに、日常生活を送る上での様々なコストも発生します。例えば、手の指の関節が変形し、ペットボトルのキャップが開けられない、瓶の蓋が開かないといった状況になれば、オープナーなどの自助具が必要になります。また、膝や足首の痛みが強くなれば、杖や歩行器、あるいは家の中に手すりを設置するといった住宅改修が必要になるかもしれません。衣類も、ボタンのかけやすい前開きの服や、脱ぎ履きしやすい靴を選ぶようになり、これまでの持ち物を見直す必要が出てきます。そして、最も大きな影響を及ぼす可能性があるのが、「就労」の問題です。関節の痛みや倦怠感、あるいは通院のために、これまでと同じように働くことが困難になる場合があります。勤務時間を短縮したり、休職したり、場合によっては退職を余儀なくされたりすることで、収入が減少してしまうリスクは、関節リウマチの患者さんが直面する深刻な問題です。これは、単に収入が減るだけでなく、社会との繋がりや自己肯定感の喪失といった精神的なダメージにも繋がりかねません。このように、関節リウマチは、直接的な治療費以外にも、様々な形で家計や生活に影響を及ぼします。病気と長く付き合っていくためには、こうした間接的なコストも念頭に置き、利用できる社会資源(福祉サービスや就労支援など)を積極的に活用しながら、生活全体を再設計していく視点が重要になるのです。
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大人の喘息、呼吸器内科とアレルギー科の違い
大人が発症する喘息の診療において、中心的な役割を担うのは「呼吸器内科」と「アレルギー科」です。この二つの診療科は、どちらも喘息治療のエキスパートですが、そのアプローチにはそれぞれ特徴があります。どちらを受診すれば良いか迷った時のために、その違いを理解しておきましょう。「呼吸器内科」は、気管支や肺といった「呼吸器」という臓器そのものを専門に診る科です。喘息は、気道の慢性的な炎症が本態であるため、まさに呼吸器内科の専門領域のど真ん中に位置します。呼吸器内科の強みは、喘息と症状が似ている他の呼吸器疾患との鑑別診断能力にあります。例えば、長引く咳の原因は喘息だけではありません。喫煙者に多いCOPD(慢性閉塞性肺疾患)や、肺炎、肺結核、あるいは肺がんといった病気でも、咳や息切れは起こります。呼吸器内科では、胸部レントゲンやCT、呼吸機能検査といった専門的な検査を駆使して、これらの病気の可能性を正確に除外し、的確な診断を下すことができます。喘息の治療においても、吸入ステロイド薬を中心とした気道の炎症を抑える治療を専門的に行います。一方、「アレルギー科」は、喘息を引き起こす「原因」に焦点を当てたアプローチを得意とします。喘息の多くは、ハウスダストやダニ、ペットの毛、花粉といった特定のアレルゲンに対するアレルギー反応によって引き起こされます。アレルギー科では、血液検査や皮膚反応テストなどを行い、何がアレルギーの原因となっているのかを突き止めます。そして、薬物治療に加えて、そのアレルゲンを生活環境から除去・回避するための具体的な指導(アレルゲン免疫療法などを含む)を行うことで、症状の根本的な改善を目指します。アトピー性皮膚炎やアレルギー性鼻炎、食物アレルギーなど、喘息以外の複数のアレルギー疾患を合併している方は、アレルギー科で包括的に診てもらうのが効率的です。まとめると、咳や息切れの原因を幅広く調べたい、他の呼吸器疾患が心配という方は「呼吸器内科」へ。アレルギー体質が自覚にあり、原因物質を特定して根本的な対策をしたい方は「アレルギー科」へ、と考えることができます。
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まぶたの裏の痛み、内麦粒腫の正体と原因
まぶたが腫れて痛む「ものもらい」。多くの人が一度は経験したことがあるこの症状ですが、実はいくつかの種類があることをご存知でしょうか。その中でも、まぶたの裏側にできて、ゴロゴロとした異物感や強い痛みを伴うのが「内麦粒腫(ないばくりゅうしゅ)」です。これは、まつ毛の生え際あたりにできる一般的な「外麦粒腫」とは異なり、より深部で炎症が起きるため、外見からは腫れが分かりにくいこともあります。内麦粒腫の直接的な原因は、私たちの皮膚や鼻の中、喉などに常に存在している「黄色ブドウ球菌」などの細菌が、まぶたにある分泌腺に感染することです。では、どの分泌腺に感染するのでしょうか。その舞台となるのが「マイボーム腺」です。マイボーム腺は、まつ毛の生え際の内側にずらりと並んでいる小さな器官で、目の表面を覆う涙が蒸発しないように、油分を分泌するという非常に重要な役割を担っています。このマイボーム腺の出口が何らかの理由で詰まり、分泌物が溜まってしまうと、そこが細菌にとって格好の繁殖場所となります。そして、細菌が中で増殖し、急性的な炎症と化膿を引き起こした状態が、内麦粒腫なのです。まぶたを裏返すと、白や黄色っぽい膿の点が確認できることもあります。外麦粒腫が毛穴や汗腺への感染であるのに対し、内麦粒腫は目の潤いを守る大切なマイボーム腺への感染であるという違いを理解しておくことが重要です。この原因菌であるブドウ球菌は、普段は特に悪さをしない常在菌ですが、体が弱っていたり、衛生状態が悪かったりすると、途端に牙をむきます。つまり、内麦粒腫の発症は、単に細菌がそこにいただけではなく、感染を許してしまうような体側の要因や環境的な要因が複雑に絡み合っている結果と言えるのです。
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高額な生物学的製剤、費用負担を軽くする方法
関節リウマチの治療に革命をもたらした「生物学的製剤」。関節の破壊を強力に抑え、多くの患者さんを痛みから解放してくれるこの画期的な薬は、まさに希望の光と言えるでしょう。しかし、その高い効果と引き換えに、治療費が非常に高額であるという現実があります。3割負担の医療保険を利用しても、月々の薬剤費だけで数万円の負担となり、治療の継続をためらってしまう方も少なくありません。しかし、諦めるのはまだ早いです。日本の公的な医療保険制度には、こうした高額な医療費に対する患者の負担を軽減するための、いくつかの強力なセーフティーネットが用意されています。これらの制度を正しく理解し、活用することが、安心して最善の治療を続けるための鍵となります。その代表格が「高額療養費制度」です。これは、同一月(1日から末日まで)にかかった医療費の自己負担額が、所得に応じて定められた上限額を超えた場合に、その超えた金額が後から払い戻される制度です。例えば、一般的な所得の方(標準報酬月額28万~50万円)の場合、自己負担の上限額は月におよそ8万円強に設定されています。生物学的製剤の治療費は、3割負担でもこの上限額を超えることが多いため、この制度を利用することで、実際の負担を大幅に抑えることができます。さらに便利なのが「限度額適用認定証」です。事前にこの認定証を健康保険組合や市町村の窓口で申請し、医療機関の会計時に提示することで、窓口での支払いが初めから自己負担限度額までとなります。後から払い戻しの申請をする手間が省け、一時的な高額な立て替え払いの必要がなくなるため、ぜひ活用したい制度です。また、これに加えて、勤務先の健康保険組合によっては、独自の「付加給付制度」を設けている場合があります。これは、高額療養費制度で定められた自己負担限度額よりも、さらに低い上限額(例えば2万5000円など)を設定し、それを超えた分を給付してくれるという、非常に手厚い制度です。ご自身が加入している健康保険の給付内容を一度確認してみることをお勧めします。これらの制度を組み合わせることで、高額な生物学的製剤の治療も、月々2〜3万円程度の負担で受けられるケースが多くなります。経済的な不安を抱え込まず、まずは病院の相談窓口やソーシャルワーカー、加入している健康保険組合に問い合わせてみましょう。
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いびきと眠気は危険なサインかも
睡眠時無呼吸症候群は、眠っている間に呼吸が何度も止まったり浅くなったりする病気です。この病気が厄介なのは、睡眠中に起こるため、ご本人が症状を自覚しにくいという点にあります。しかし、体は確実に悲鳴を上げており、様々なサインとなって現れます。最も代表的な症状は、なんといっても「大きないびき」と「日中の強い眠気」です。いびきは、空気の通り道である上気道が狭くなることで発生する音ですが、無呼吸症候群のいびきには特徴があります。ただ大きいだけでなく、途中で音がパタッと止まり、しばらく静かになったかと思うと、あえぐような激しい呼吸と共に再び轟音のいびきをかく、というパターンを繰り返すのです。この静寂の時間が、まさに呼吸が止まっている瞬間です。本人は眠っているため気づきませんが、隣で寝ている家族やパートナーは、その異様な光景に不安を覚えることでしょう。そしてもう一つの代表的な症状が、日中に襲ってくる耐えがたいほどの眠気です。夜間に何度も呼吸が止まることで、体は低酸素状態に陥り、脳や体は十分に休息することができません。その結果、睡眠時間は足りているはずなのに、日中の活動中に強烈な眠気に襲われます。会議中や運転中といった、本来であれば緊張感を保つべき場面でさえ居眠りをしてしまうこともあり、社会生活に大きな支障をきたすだけでなく、重大な事故を引き起こす危険性もはらんでいます。大きないびき、睡眠中の呼吸停止、そして日中の異常な眠気。これらは、睡眠時無呼吸症候群が発している最も分かりやすい警告信号です。もし、ご自身やご家族にこれらの症状が見られる場合は、決して軽視せず、専門の医療機関に相談することが重要です。
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首の骨が原因かも?頚椎症としびれの関係
指先にしびれを感じると、多くの人は手や手首に原因があると考えがちです。しかし、実はその大元である「首」に問題が隠れているケースも少なくありません。私たちの首の骨、すなわち頚椎(けいつい)の中には、脳から腕や手へと向かう重要な神経の束である脊髄が通っています。この頚椎が、加齢などによって変形したり、骨と骨の間にあるクッション材の役割を果たす椎間板が飛び出したり(頚椎椎間板ヘルニア)すると、脊髄や、そこから枝分かれする神経根が圧迫され、その神経が支配する領域、つまり腕や指先にしびれや痛み、力の入りにくさを引き起こすのです。これを総称して「頚椎症」と呼びます。頚椎症によるしびれには、いくつかの特徴があります。まず、しびれが特定の指だけでなく、腕全体や肩甲骨の周りにも広がることがあります。また、首を後ろに反らしたり、特定の方向に傾けたりすると、しびれが強くなるのも特徴的なサインです。朝起きた時に首や肩が凝り固まっている、上を向くのがつらい、といった首自体の症状を伴うことも多いです。どの神経が圧迫されているかによって、しびれの出る指も異なります。例えば、親指や人差し指がしびれる場合は、主に第6頚神経、中指は第7頚神経、薬指や小指は第8頚神経の障害が疑われます。このような症状に心当たりがある場合、受診すべき診療科は「整形外科」です。整形外科では、レントゲンやMRIといった画像検査を用いて、頚椎の状態や神経の圧迫の程度を詳しく調べます。治療は、まず首への負担を減らすための生活指導や、首を牽引する理学療法、炎症を抑える薬の内服といった保存的な方法が中心となります。首の安静を保つために、頚椎カラーという装具を処方されることもあります。ほとんどの場合はこれらの治療で症状が改善しますが、麻痺が進行して歩行障害が出たり、日常生活に深刻な支障をきたしたりする場合には、神経の圧迫を取り除くための手術が検討されることもあります。指先のしびれを感じたら、一度、ご自身の首の状態にも目を向けてみることが大切です。
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手首や肘が原因?整形外科で見る指のしびれ
指先のしびれという症状は、実はしびれている指先の部分ではなく、そこへ向かう神経の通り道のどこかに原因が隠れていることがほとんどです。特に、手首や肘といった関節部分は、神経が狭いトンネルのような場所を通るため、圧迫を受けやすいウィークポイントとなっています。このような末梢神経の圧迫が原因のしびれは、整形外科の得意分野です。代表的な疾患の一つが「手根管症候群(しゅこんかんしょうこうぐん)」です。これは、手首の内側にある「手根管」というトンネルの中を通る正中神経が圧迫されて起こります。特徴的なのは、親指、人差し指、中指、そして薬指の親指側の半分がしびれることです。小指にはしびれが及ばないのが、この疾患を見分ける重要なポイントです。明け方にしびれや痛みで目が覚めたり、手を振ると症状が少し楽になったりするという訴えもよく聞かれます。主に、手をよく使う仕事をしている人や、妊娠・出産期、更年期の女性に多く見られます。もう一つ代表的なのが「肘部管症候群(ちゅうぶかんしょうこうぐん)」です。これは、肘の内側にある「肘部管」というトンネルで尺骨神経が圧迫される病気です。症状は、薬指の小指側半分と小指にしびれや感覚の鈍さが現れます。肘を曲げた状態が長く続くと症状が悪化しやすく、例えば電話で長時間話したり、頬杖をついたりする癖がある人は注意が必要です。進行すると、指の間の筋肉が痩せてきて、細かい作業がしづらくなることもあります。整形外科では、問診や診察でどの神経が障害されているかを推測し、神経伝達速度検査などで診断を確定させます。治療は、まず安静や装具の装着、ビタミン剤の内服といった保存療法から開始しますが、症状が重い場合や改善しない場合には、神経の圧迫を取り除くための手術が行われることもあります。どの指がしびれているかを正確に把握することが、原因究明への近道となるのです。
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ストレスも一因?心療内科が関わる指のしびれ
整形外科や脳神経内科で検査をしても、特に明らかな異常が見つからない。それなのに、指先のジンジンとしたしびれや冷たい感覚が消えない。このような、原因のはっきりしないしびれに悩んでいる場合、その背景に「ストレス」や「自律神経の乱れ」が関わっている可能性があります。私たちの体は、心と密接に繋がっています。仕事や人間関係などで強い精神的なストレスを受け続けたり、過労や不規則な生活で心身が疲弊したりすると、体の様々な機能を自動的にコントロールしている自律神経のバランスが崩れてしまいます。自律神経には、体を活動的にする「交感神経」と、リラックスさせる「副交感神経」の二つがあり、これらがうまく切り替わることで健康が保たれています。しかし、ストレスによって交感神経が過剰に優位な状態が続くと、血管が収縮して血行が悪くなります。特に、手足の指先のような末端部分は血行不良の影響を受けやすく、それがしびれや冷えといった症状として現れることがあるのです。また、自律神経の乱れは、不安や緊張感を高め、痛みや不快な感覚に対して過敏にさせてしまうこともあります。そのため、実際にはごくわずかな刺激や感覚の変化を、脳が「しびれ」として強く認識してしまうというケースも考えられます。このような心因性の症状が疑われる場合、相談先として「心療内科」や「精神科」が選択肢となります。これらの診療科では、薬物療法だけでなく、カウンセリングを通じてストレスの原因を探ったり、リラクゼーション法などの対処スキルを身につけたりすることで、心と体の両面から症状の改善を目指します。もちろん、まずは整形外科などで器質的な疾患がないことをきちんと確認することが大前提です。その上で、もしあなたが長引く原因不明のしびれに加え、不眠、動悸、気分の落ち込み、食欲不振といった他の不調も感じているのであれば、一度、心の専門家に相談してみることで、解決への新たな道が開けるかもしれません。
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胃腸炎と診断された後の食事とセルフケア
病院で胃腸炎と診断され、薬を処方されても、それだけで症状がすぐに消えるわけではありません。胃腸炎からの回復を早め、体力の消耗を最小限に抑えるためには、医療機関での治療と並行して、自宅での適切なセルフケア、特に「食事」と「水分補給」が極めて重要になります。まず、胃腸炎の急性期、つまり嘔吐や下痢が最も激しい時期には、無理に食事を摂る必要はありません。むしろ、固形物を食べることで胃腸に負担をかけ、症状を悪化させてしまう可能性があります。この時期に最優先すべきは、何よりも「水分補給」です。嘔吐や下痢によって、体内からは水分と共にナトリウムやカリウムといった電解質(イオン)が大量に失われます。ただの水やお茶だけを飲むと、体液が薄まってしまい、かえって脱水を助長することがあります。そこで役立つのが「経口補水液」です。薬局などで市販されており、水分と電解質を最も効率よく体に吸収できるバランスで配合されています。これを、一度にがぶ飲みするのではなく、スプーン一杯やペットボトルのキャップ一杯分を、5〜10分おきに根気よく摂取するのがポイントです。嘔吐が少し落ち着いてきたら、食事を再開します。しかし、いきなり普段通りの食事に戻すのは厳禁です。胃腸に優しく、消化の良いものから少しずつ試していきましょう。食事療法の基本は、「低脂肪・低残渣(ていざんさ)」です。脂肪分の多い揚げ物や肉類、食物繊維の多い野菜(ごぼう、きのこなど)や果物は、胃腸に負担をかけるため避けるべきです。おすすめは、おかゆ(重湯から始め、徐々に米の量を増やす)、よく煮込んだうどん、すりおろしたりんご、豆腐、白身魚の煮付けなどです。乳製品や、オレンジジュースなどの柑橘系の飲み物、香辛料の強い刺激物、アルコール、カフェインも、回復するまでは控えましょう。症状が改善してきたからといって油断せず、数日間は消化の良い食事を続け、徐々に普段の食事に戻していくことが、ぶり返しを防ぐための鍵となります。辛い症状の時こそ、焦らず、胃腸をいたわる丁寧なセルフケアを心がけてください。