営業部に所属する佐藤さん(三十八歳)は、仕事熱心で、体力には自信があった。ある週の初め、四歳になる娘が保育園で熱を出し、小児科でRSウイルスと診断された。佐藤さんは妻に看病を任せ、「子供の風邪だろう」と、特に気に留めることもなく、連日の残業をこなしていた。異変が起きたのは、その週末のことだった。喉に違和感を覚え、体が重く感じる。月曜の朝には、熱が三十八度を超え、鼻水が止まらなくなった。それでも佐藤さんは、「ただの風邪だ。大事なプレゼンがあるから休めない」と、解熱剤を飲んで出社した。しかし、彼の体は限界に達していた。プレゼンの最中、突然、激しい咳の発作に襲われ、言葉が続けられなくなってしまったのだ。咳はゴホゴホと胸の奥から響き、粘り気の強い痰が絡んで息苦しい。同僚や上司の心配そうな視線の中、佐藤さんは会議室を後にするしかなかった。その足で呼吸器内科を受診した佐藤さんを待っていたのは、「RSウイルス感染症」という診断だった。医師からは、「子供からうつったのでしょう。大人がかかると、咳が長引いて大変ですよ。最低でも数日はしっかり休んでください」と告げられた。結局、佐藤さんはその週いっぱい仕事を休むことになった。チームに多大な迷惑をかけたという申し訳なさと、自分の体調管理の甘さに対する後悔の念に苛まれた。熱は数日で下がったが、医師の言葉通り、咳だけがしつこく残った。復帰後も、電話の応対中に咳き込んでしまったり、夜、咳で眠れずに翌日の仕事に影響が出たりと、完全復活までには三週間近くを要した。この経験を通じて、佐藤さんは二つのことを痛感したという。一つは、RSウイルスは決して「子供だけの病気」ではないこと。そしてもう一つは、家族の誰かが感染症にかかった時、それは自分自身の問題でもあるということだ。家庭内での感染対策を徹底し、自分の健康を守ることが、結果として、社会人としての責任を果たすことにも繋がるのだと、彼は深く反省したのだった。