市販薬は、その使い方を誤ると、かえって便秘を悪化させたり、腸の健康を損なったりする危険性があることを知っておく必要があります。特に注意が必要なのが、腸を直接刺激して無理やりぜん動運動を起こさせる「刺激性下剤」です。センナやビサコジルといった成分が含まれる薬がこれにあたります。確かに効果はシャープですが、これを長期間にわたって連用すると、腸がその強い刺激に慣れてしまい、次第に薬なしでは排便できなくなる「依存」の状態に陥りやすくなります。さらに、だんだんと効きが悪くなり、薬の量を増やさないと出ないという悪循環に陥ることも少なくありません。これは、腸本来の自然な排便能力を衰えさせてしまう、非常に好ましくない状態です。市販薬は、あくまで旅行中や一時的な体調不良など、急な便秘に対する「頓服薬」として利用するのが賢明な付き合い方です。では、どのような状態になったら、市販薬に頼るのをやめて、専門医の診察を受けるべきなのでしょうか。そのタイミングを見極めるための、いくつかの重要なサインがあります。まず第一に、「市販薬を飲んでも、以前のようにスッキリと出なくなった」「効き目が弱くなり、薬の量を増やさないと効果を感じられなくなった」時です。これは、腸が薬の刺激に慣れてしまっているサインであり、治療方針を見直す必要があります。第二に、「市販薬を週に3、4回以上、常習的に使わないと排便がない」状態が続いている場合です。これは、もはや自力での排便が困難になっている証拠であり、専門的な治療介入が必要です。第三に、「便秘だけでなく、激しい腹痛や吐き気、お腹の張りなど、他のつらい症状を伴う」ようになった時です。薬の副作用や、背景に別の病気が隠れている可能性も考えられます。このようなサインに気づいたら、ためらわずに「消化器内科(胃腸科)」を受診してください。医療機関では、便秘のタイプを正確に診断し、依存性の少ない、より安全で効果的な薬を処方してくれます。近年では、腸の水分分泌を促す薬や、胆汁酸の働きを利用する薬など、刺激性下剤とは全く異なる作用機序を持つ新しいタイプの便秘治療薬が登場しており、治療の選択肢は大きく広がっています。自己判断で市販薬を使い続けるリスクを理解し、専門家と相談しながら、腸の健康を取り戻すための根本的な治療へとシフトすることが大切です。
市販薬に頼る前に知りたい病院へ行くタイミング