私が、人生で経験した痛みの中で、間違いなく三本の指に入ると断言できるのが、35歳の夏にかかった「手足口病」です。当時、3歳になる息子が保育園で手足口病をもらってきました。子供の症状は、微熱と、手足に数個のポツポツとした発疹が出た程度で、比較的軽く済みました。その時は、「子供の病気は大変だな」くらいにしか思っていませんでした。本当の地獄が、自分自身を襲うことになるとは夢にも思わずに。息子が回復して数日後、まず私を襲ったのは、強烈な悪寒と、体の節々が砕け散るかのような痛みでした。体温計は39.5度を指し、インフルエンザを疑いましたが、検査は陰性。「ひどい夏風邪でしょう」と診断され、解熱剤をもらって帰宅しました。しかし、翌日、異変は手足に現れました。手のひらと足の裏に、針で刺されたようなチクチクとした痛みを感じ始めたのです。見ると、そこには小さな赤い斑点が無数に出現していました。そして、その斑点は、時間とともに水ぶくれへと変化し、その数もどんどん増えていきました。痛みは尋常ではなく、足の裏は、まるで熱した鉄板の上を歩いているかのよう。トイレに行くことさえ苦行でした。手のひらは、ドアノブを回す、スマートフォンの画面をタップする、といった些細な動作でさえ激痛が走りました。さらに追い打ちをかけたのが、口の中の惨状です。舌や歯茎、喉の奥にまで、数えきれないほどの口内炎ができ、口の中は常に焼けるような痛みがありました。食事はもちろん、水を飲むことすらままならず、体重は数日で4キロも落ちました。再受診した結果、診断は「手足口病」。子供からうつったのだろうとのことでした。特効薬はなく、ひたすら痛みに耐え、自然治癒を待つしかない日々に、私は心身ともに疲弊しきっていました。完全に痛みが引き、普通の生活に戻れるまでには、2週間以上かかりました。大人の手足口病は、決して甘く見てはいけない。あの地獄のような痛みは、私にそう強く教えてくれました。
地獄の痛み。私が経験した大人の手足口病体験記