手足口病といえば、夏の時期に保育園や幼稚園で流行する、子供の代表的な感染症というイメージが強いでしょう。しかし、この病気は決して子供だけのものではありません。大人も感染することがあり、しかも大人が感染した場合は、子供よりも症状が重く、つらい経過をたどることが多いのです。手足口病は、主にコクサッキーウイルスやエンテロウイルスといったウイルスによって引き起こされる感染症です。感染経路は、咳やくしゃみによる「飛沫感染」、ウイルスが付着した手で口や鼻に触れる「接触感染」、そして便の中に排出されたウイルスが口に入る「糞口感染」です。大人の感染は、主に手足口病にかかった子供から家庭内でうつるケースがほとんどです。大人が手足口病にかかった場合、その症状は子供の典型的なものとは一線を画します。まず、子供では比較的軽症で済むことが多い発熱が、大人の場合は38度以上の高熱が出ることが多く、悪寒や関節痛、筋肉痛、強い倦怠感を伴い、インフルエンザと間違われることもあります。そして、病名の由来である「発疹」も、より強烈に現れます。手のひらや足の裏にできる水ぶくれ(小水疱)は、子供よりも数が多く、大きく、そして何より激しい痛みを伴うのが特徴です。歩くと足の裏に激痛が走り、物を持つことさえ困難になることも少なくありません。口の中にできる水ぶくれも、広範囲にわたって多発し、激しい痛みを伴う口内炎となります。これにより、食事を摂るのが非常につらく、水分補給さえもままならなくなることがあります。さらに、大人の手足口病では、発症から数週間後に、手足の爪が剥がれてしまう「爪甲脱落症」という後遺症が見られることもあります。まれに、髄膜炎や脳炎、心筋炎といった重篤な合併症を引き起こす可能性もゼロではありません。このように、大人の手足口病は、単なる「子供の夏風邪」とは全く異なる、つらく、そして注意が必要な感染症なのです。