胃腸炎の症状は、時と場所を選ばず、しばしば休日や深夜といった医療機関が閉まっている時間帯にピークを迎えることがあります。激しい嘔吐と下痢に苦しみながら、「このまま朝まで我慢すべきか、それとも救急外来へ行くべきか」と悩んだ経験がある方もいるでしょう。この判断は非常に難しいものですが、いくつかの目安を知っておくことで、適切な行動をとることができます。まず、一般的なウイルス性胃腸炎であれば、症状は辛いものの、必ずしも全てのケースで救急受診が必要なわけではありません。しかし、以下のような「危険なサイン」が見られる場合は、ためらわずに救急外来を受診することを強く推奨します。最も重要な判断基準は、「脱水症状の程度」です。水分が全く摂れない、あるいは飲んでもすぐに吐いてしまう状態が続いている場合は、脱水が急速に進行する危険があります。特に、「ぐったりして意識が朦朧としている」「尿が半日以上出ていない」「唇や口の中がカラカラに乾いている」「立ち上がるとめまいやふらつきがする」といった症状は、重度の脱水を示唆しており、点滴による水分補給が必要です。次に、「腹痛の性質」にも注意が必要です。胃腸炎の腹痛は、波があるギューッとした痛みが特徴ですが、「経験したことのないような激しい痛みが持続する」「お腹が板のように硬くなっている」「歩くとお腹に響いて痛い」といった症状は、虫垂炎(盲腸)や腸閉塞、腹膜炎など、緊急手術が必要な他の病気の可能性があります。また、「血便」も重要なサインです。便に血が混じる場合、細菌性の胃腸炎や、虚血性腸炎、大腸憩室炎といった病気が考えられ、専門的な検査や治療が必要になることがあります。特に高齢者や、糖尿病などの持病がある方は、重症化しやすいため、早めの受診が賢明です。これらの危険なサインがなく、少量でも水分が摂れており、意識がはっきりしている場合は、自宅で経口補水液などを摂取しながら安静にし、翌朝にかかりつけ医を受診するという選択も可能です。しかし、少しでも判断に迷う場合は、自己判断で重症化するリスクを冒すよりも、救急外行って専門家の診察を受ける方がはるかに安全です。