大人がRSウイルスに感染した際に、最も長く、そしてつらく感じる症状が、あの「しつこい咳」です。熱が下がり、体のだるさが抜けた後も、ゴホゴホという湿った咳だけが何週間も続き、日常生活や仕事に大きな影響を及ぼします。なぜ、RSウイルスの咳はこれほどまでに長引くのでしょうか。そして、そのつらさを少しでも和らげる方法はあるのでしょうか。RSウイルスの咳が長引く主な理由は、ウイルスが気道、特に気管支の粘膜に深いダメージを与え、その修復に時間がかかるためです。ウイルスによって傷ついた粘膜は、非常に過敏な状態(気道過敏性)になっており、少しの刺激、例えば、冷たい空気や会話、ホコリなどにも過剰に反応して、咳を引き起こしてしまうのです。また、傷ついた粘膜からは、それを保護しようとして多量の痰が分泌されるため、痰を排出しようとする咳が頻繁に出ます。このつらい咳を和らげるためには、まず、医療機関で適切な薬を処方してもらうことが基本です。痰の粘り気を下げて排出しやすくする「去痰薬」や、狭くなった気管支を広げて呼吸を楽にする「気管支拡張薬」などが、症状の緩和に役立ちます。それに加えて、家庭でできるセルフケアを組み合わせることで、回復を早めることができます。最も効果的なセルフケアの一つが、「加湿」です。空気が乾燥していると、気道の粘膜も乾燥し、咳が出やすくなります。加湿器などを使って、室内の湿度を五十から六十パーセントに保つようにしましょう。濡れタオルを室内に干すだけでも効果があります。また、「十分な水分補給」も重要です。水分をこまめに摂ることで、痰が柔らかくなり、排出しやすくなります。温かい飲み物は、喉を潤し、リラックス効果も期待できます。はちみつ(一歳未満の乳児には禁忌)を溶かした白湯なども良いでしょう。夜、咳で眠れない時は、枕を高くしたり、クッションなどで上半身を少し起こしたりして寝ると、気道が広がり、呼吸が楽になることがあります。焦らず、気道をいたわる生活を心がけることが、長引く咳との戦いに勝利するための鍵となります。