家の周りで同じアシナガバチを何度も一匹だけ見かける。それは、ただの偶然ではなく、アシナガバチの計画的な巣作り行動の初期段階である可能性を疑うべきです。彼女たちは、やみくもに巣を作り始めるわけではありません。まるで不動産屋が物件を吟味するように、慎重に場所を選定する「偵察活動」からすべてが始まります。この重要な任務を担うのが、春先に活動を開始した女王蜂です。彼女は、新しいコロニーを築くため、一匹で巣作りに最適な場所を探し回ります。女王蜂が偵察の際にチェックするポイントは、主に三つあると考えられています。第一に、「安全性」です。雨風を直接受けにくく、外敵から巣を守りやすい場所、つまり軒下やベランダの天井、窓枠の上といった閉鎖的な空間が好まれます。第二に、「餌場の近さ」です。幼虫の餌となる芋虫や毛虫が豊富な庭木や植え込みが近くにあるかどうかも、重要な選定基準となります。第三に、「巣の材料の調達しやすさ」です。巣の材料となる木の繊維が手に入りやすい、古い木の柵やウッドデッキの近くなども好条件となります。女王蜂はこれらの条件を満たす場所を見つけるため、数日間にわたって同じエリアを何度も飛び回り、入念に下見を繰り返します。壁に止まってみたり、隙間に入り込んでみたりと、その動きは非常に慎重です。この偵察段階で、「この場所は巣作りに適さない」と判断させることができれば、巣作りを未然に防ぐことができます。例えば、市販の蜂用忌避スプレーを巣を作られそうな場所に吹き付けておく、あるいは木酢液などの蜂が嫌う匂いのするものを置いておく、といった対策が有効です。一匹だけだからと見過ごしていると、女王蜂は偵察を終え、本格的な建設工事に着手してしまいます。偵察役の一匹は、アシナガバチからの静かな宣戦布告と捉え、早めの対策を講じることが大切です。