医療専門職による監修記事やインタビュー

2025年7月
  • まさか自分が無呼吸だなんて思わなかった

    医療

    数年前まで、私は自分のことを健康そのものだと信じていました。しかし、今思えば、体はいくつもサインを送ってくれていたのです。当時、私が自覚していた唯一の症状は、日中のどうしようもない眠気でした。特に午後の会議では、自分の意志とは裏腹に、まぶたが重く垂れ下がってきて、上司の話が子守唄のように聞こえてしまうのです。何度かカクンと舟を漕いでしまい、そのたびに冷や汗をかきました。歳のせいか、仕事の疲れが溜まっているのだろう。そう軽く考えていました。そんな私の認識を根底から覆したのが、妻からの一言でした。「あなた、夜中に時々、息が止まっていてすごく心配なんだけど」。最初は冗談だろうと笑い飛ばしました。いびきがうるさいとは言われたことがありましたが、息が止まっているなんて、全く自覚がなかったからです。しかし、妻は真剣でした。ガーガーと大きないびきが突然静かになり、十数秒も無音の状態が続いたかと思うと、「グガッ」と、まるで溺れた人が息を吹き返すような、苦しそうな呼吸で再びいびきが始まるのだと言います。その様子をスマートフォンで録画して見せられた時、私は言葉を失いました。そこに映っていたのは、安らかに眠っているとは到底言えない、苦しそうな自分の姿でした。これはただ事ではないかもしれない。妻に強く勧められ、私はしぶしぶ専門のクリニックを受診しました。自宅でできる簡易検査を受けた結果、睡眠時無呼吸症候群、それも重症だと診断されました。診断が確定した時はショックでしたが、同時に、長年悩まされてきた日中の眠気や起床時の頭痛の原因がようやく分かったという安堵感もありました。治療としてCPAP(シーパップ)という機械を使い始めてから、私の生活は一変しました。夜はぐっすりと眠れ、朝はスッキリと目覚めることができます。日中の眠気も嘘のようになくなり、仕事にも集中できるようになりました。今、私が心から思うのは、家族の指摘に耳を傾けて本当に良かったということです。もしあのまま放置していたらと思うと、ぞっとします。

  • 総合内科や一般内科で喘息は診てもらえるか

    医療

    長引く咳や息切れを感じた時、多くの人がまず最初に足を運ぶのは、身近な「総合内科」や「一般内科」のクリニックかもしれません。専門の呼吸器内科やアレルギー科が近くになかったり、どこを受診すれば良いか分からなかったりする場合、かかりつけの内科医に相談するのは、ごく自然な流れです。では、これらの内科で喘息の診療は可能なのでしょうか。結論から言えば、軽症の喘息や、診断が比較的容易な典型的なケースであれば、多くの内科医が初期対応や継続的な治療を行うことが可能です。内科医は、プライマリ・ケア(初期医療)の専門家として、幅広い疾患に関する知識を持っています。問診や聴診で喘息が疑われれば、気管支拡張薬や吸入ステロイド薬を処方し、症状の改善を図ります。喘息の治療ガイドラインも広く普及しており、多くの内科医がそれに沿った標準的な治療を提供してくれます。かかりつけ医であれば、あなたの既往歴やアレルギー歴、生活背景などを把握しているため、総合的な観点から診療を進めてくれるというメリットもあります。しかし、内科での治療には限界があることも理解しておく必要があります。例えば、症状が重症であったり、様々な治療薬を試しても症状が十分にコントロールできなかったりする「難治性喘息」の場合や、喘息と他の呼吸器疾患との鑑別が難しい複雑なケースでは、より専門的な知識と経験、そして高度な検査機器が必要となります。呼吸機能検査の詳細な解析や、喀痰中の好酸球測定、呼気NO(一酸化窒素)濃度測定といった専門的な検査は、呼吸器内科やアレルギー科でなければ実施できないことがほとんどです。したがって、かかりつけの内科で治療を受けていても、「症状がなかなか改善しない」「発作を繰り返してしまう」「より専門的な検査を受けて原因を詳しく知りたい」と感じた場合は、遠慮なく専門医への紹介状を書いてもらうようにお願いしましょう。かかりつけの内科医は、専門医療へのゲートキーパー(門番)としての重要な役割も担っています。まずは身近な内科で相談し、必要に応じて専門医へと繋げてもらう。これもまた、喘息という病気と上手く付き合っていくための、賢い医療機関のかかり方の一つなのです。

  • 突然の嘔吐と下痢、胃腸炎は何科へ行くべき?

    医療

    ある日突然、激しい吐き気と腹痛に襲われ、トイレから離れられなくなるほどのひどい下痢が始まる。多くの人が一度は経験したことのある、この辛い症状の正体は、多くの場合「感染性胃腸炎」です。ウイルスや細菌が消化管に感染することで引き起こされるこの病気は、特に冬場にはノロウイルス、夏場には細菌性のものが猛威を振るいます。いざ、このような症状に見舞われた時、あまりの辛さに「病院へ行きたいけれど、一体、何科を受診すれば良いのだろう」と迷ってしまう方は少なくないでしょう。風邪のように内科なのか、お腹の専門である胃腸科なのか、あるいは他の科なのか。このような急性の胃腸炎で、まず最初に受診を検討すべき診療科は「内科」あるいは「消化器内科(胃腸科)」です。どちらの科でも、胃腸炎の基本的な診断と治療は可能です。近所にかかりつけの内科があれば、まずはそこへ相談するのが最も手軽で迅速な選択肢と言えるでしょう。内科医は、問診を通じて症状の始まった時期や食事の内容、周囲での流行状況などを聞き取り、胃腸炎の診断を下します。そして、脱水症状を防ぐための水分補給の指導や、症状を和らげるための整腸剤、吐き気止め、解熱剤などを処方してくれます。一方で、「消化器内科」や「胃腸科」は、その名の通り食道・胃・腸といった消化器全般を専門とするエキスパートです。より専門的な視点から診療を行ってくれるため、症状が非常に重い場合や、下痢に血液が混じる(血便)など、通常の胃腸炎とは異なる危険なサインが見られる場合には、より適切な対応が期待できます。また、胃腸炎の症状が長引く場合や、何度も繰り返すような場合には、背景にクローン病や潰瘍性大腸炎といった他の病気が隠れている可能性も考えられるため、専門的な検査ができる消化器内科の受診が推奨されます。結論として、急な胃腸炎であれば、まずはアクセスしやすい内科で十分対応可能です。しかし、症状に不安な点がある場合や、より専門的な診療を希望する場合には、消化器内科(胃腸科)を選ぶと、さらに安心できるでしょう。

  • リウマチ治療と医療費助成、知っておきたい公的制度

    知識

    関節リウマチは、長期にわたる治療が必要となるため、医療費の負担も継続的になります。特に、生物学的製剤などの高価な薬剤を使用する場合、その負担は決して軽いものではありません。しかし、日本の医療制度には、こうした患者さんの経済的負担を軽減するための様々な公的支援制度が設けられています。これらの制度を正しく知り、適切に活用することは、安心して治療を続ける上で不可欠です。まず、最も基本的で重要な制度が、前述の「高額療養費制度」です。これは、所得区分に応じて定められた1ヶ月の医療費自己負担限度額を超えた分が、後から払い戻される(または窓口での支払いが限度額までになる)制度です。関節リウマチの治療、特に高価な薬剤を使用する場合には、ほとんどの方がこの制度の対象となります。ご自身の所得区分における自己負担限度額がいくらになるのかを、加入している公的医療保険(健康保険組合、協会けんぽ、国民健康保険など)に確認しておくことが第一歩です。次に、リウマチの症状が進行し、日常生活に一定以上の支障が出ている場合には、「身体障害者手帳」の取得を検討することもできます。関節リウマチの場合、関節の機能障害の程度に応じて等級が認定されます。手帳を取得すると、「心身障害者医療費助成制度(マル障)」などの対象となり、自治体によっては医療費の自己負担分が全額または一部助成されることがあります。助成の内容は自治体によって大きく異なるため、お住まいの市区町村の障害福祉担当課に問い合わせてみましょう。さらに、病気が原因で働くことが困難になった場合には、「障害年金」という選択肢もあります。これは、病気やけがによって生活や仕事などが制限されるようになった場合に、現役世代の方も含めて受け取ることができる年金です。関節リウマチも対象疾患の一つであり、障害の程度に応じて年金が支給されます。申請手続きは複雑ですが、年金事務所や社会保険労務士に相談することができます。これらの制度以外にも、確定申告の際に1年間の医療費が10万円(または所得の5%)を超えた場合に税金が還付される「医療費控除」も忘れてはなりません。経済的な不安は、治療の妨げになり得ます。利用できる制度は全て活用するという意識を持ち、主治医や病院のソーシャルワーカー、自治体の窓口などに積極的に相談することが大切です。

  • これは危険!ただの便秘ではない警告サイン

    医療

    便秘は非常にありふれた症状であるため、多くの人が「いつものこと」と軽視しがちです。しかし、その背景には、放置すると命に関わるような、重大な病気が隠れている可能性があります。いつもの便秘とは明らかに違う、「危険なサイン」を見逃さないことは、自分自身の健康を守る上で極めて重要です。以下に挙げるような症状が便秘と共に見られた場合は、自己判断で様子を見るのではなく、直ちに医療機関を受診してください。最も緊急性の高い危険なサインは、「激しい腹痛」と「嘔吐」を伴う場合です。便もガスも全く出ず、お腹がパンパンに張ってきて、耐えられないほどの激痛や吐き気が続く。このような症状は、腸がねじれたり、何らかの原因で塞がってしまったりする「腸閉塞(イレウス)」を強く疑います。腸閉塞は、腸の組織が壊死してしまう危険があり、緊急手術が必要となるケースも少なくない、一刻を争う状態です。次に、注意すべきは「便に血が混じる(血便)」ことです。排便後に便器が真っ赤に染まるような鮮やかな出血や、イチゴジャムのような粘液と血液が混じった便、あるいは黒いタール状の便が出る場合は、消化管のどこかで出血が起きています。その原因として、「大腸がん」やポリープ、大腸憩室からの出血、あるいは「炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎など)」といった病気が考えられます。特に、黒い便は胃や十二指腸など、上部消化管からの出血を示唆しており、こちらも緊急の検査が必要です。また、「原因不明の急激な体重減少」も、見過ごしてはならない重要なサインです。便秘と共に、ここ数ヶ月で食事制限もしていないのに体重が著しく減ってきたという場合、大腸がんなどの悪性疾患が体の栄養を奪っている可能性があります。さらに、「便が急に鉛筆のように細くなった」という変化も、大腸がんなどによって腸の内腔が狭くなっている可能性を示すサインです。これらの危険な症状がある場合に受診すべきは、「救急外来」あるいは「消化器内科、消化器外科」です。特に、激しい腹痛や嘔吐がある場合は、ためらわずに救急車の要請を検討してください。「いつもの便秘とは何かが違う」という、あなた自身の直感は非常に大切です。その体の警告信号を無視せず、迅速に行動することが、最悪の事態を防ぐための鍵となります。

  • 指先のしびれはまず整形外科を受診しよう

    医療

    指先がジンジン、ピリピリとしびれる。ペンが持ちにくい、ボタンがかけづらい。そんな不快な症状が続いた時、多くの人が「何かの病気だろうか」「病院へ行くべきだろうか」と不安に思うと同時に、「一体、何科へ行けば良いのだろう」という大きな疑問に直面します。このような指先のしびれで最初に受診を検討すべき診療科は、ずばり「整形外科」です。なぜなら、指先のしびれの多くは、首から指先までの神経が、骨や靭帯、筋肉などによって物理的に圧迫されることで引き起こされるからです。整形外科は、骨、関節、筋肉、そしてそれらの周りを走る末梢神経の病気を専門とするエキスパートです。問診で、どの指がいつからしびれるのか、どのような動作で症状が悪化するのかなどを詳しく聞き取り、レントゲン検査や神経伝達速度検査といった専門的な検査を通じて、神経がどこで圧迫されているのかを突き止めていきます。例えば、手首で神経が圧迫される「手根管症候群」や、肘で圧迫される「肘部管症候群」、あるいは首の骨(頚椎)の変形が原因で起こる「頚椎症」などが、整形外科で扱われる代表的な疾患です。もちろん、指先のしびれの原因はこれだけではありません。脳梗塞のような緊急性の高い病気や、糖尿病などの内科的な病気が隠れている可能性もゼロではありません。しかし、ろれつが回らない、片側の手足に力が入らないといった明らかな麻痺症状がなく、しびれが徐々に現れてきたような場合は、まずは整形外科の扉を叩くのが最も効率的で確実な第一歩と言えます。そこで専門的な診察を受け、「首から手にかけての神経に異常はない」ということが確認できれば、次に他の診療科を検討するというステップを踏むことで、無用な心配や診療科のたらい回しを防ぐことができるのです。

  • 痛くて瞬きも辛い、私の内麦粒腫奮闘記

    生活

    ある月曜日の朝のことでした。目覚めると、右目のまぶたの裏に、まるで小さな砂粒が入ったかのようなゴロゴロとした違和感を覚えました。寝ぼけ眼で鏡を見ても、目にゴミが入っている様子はありません。まあ、そのうち治るだろうと軽く考え、いつも通りに仕事へ向かいました。しかし、その違和感は時間と共に存在感を増していきました。午後になると、ゴロゴロ感はズキズキとした鈍い痛みに変わり、瞬きをするたびに、まぶたの奥で何かが主張しているのが分かりました。外見上はほとんど変化がなかったので、同僚に気づかれることはありませんでしたが、私自身は仕事に全く集中できませんでした。その夜、おそるおそる指でまぶたの上から触れてみると、小さなしこりのようなものが確認でき、触ると明らかに痛みが増します。これはただ事ではないかもしれない。不安な気持ちで一夜を明かすと、翌朝には痛みはさらに強くなり、まぶたも心なしか腫れぼったく感じられました。もう我慢できないと観念し、私は会社の昼休みを利用して眼科へ駆け込みました。医師は私の話を一通り聞くと、「ちょっとまぶたを裏返しますね」と言って、器具で私のまぶたをひっくり返しました。一瞬の不快感の後、医師は「ああ、これですね。内麦粒腫です」とあっさり告げました。まぶたの裏に、白い膿の点がぽつんとできていたのです。原因は、マイボーム腺という脂を出す腺に細菌が入って化膿したこと、疲れやストレスで免疫力が落ちている時にできやすいことなどを説明されました。思い返せば、確かにこの数週間、大きなプロジェクトの締め切りに追われ、睡眠時間も削っていました。原因に心当たりがありすぎました。抗生物質の点眼薬と眼軟膏を処方され、数日間はアイメイクとコンタクトレンズを控えるように指示されました。薬を使い始めると、あれほどしつこかった痛みは2日ほどで引き、1週間も経つ頃にはしこりもすっかり消えていました。この経験を通じて、体が発する小さなサインを無視してはいけないと痛感しました。そして、日々の健康管理がいかに大切かということを、まぶたの裏の小さな膿に教えられたのでした。