医療専門職による監修記事やインタビュー

2025年8月
  • JAK阻害薬とは?新しいリウマチ治療の費用感

    医療

    関節リウマチの治療薬は、ここ十数年で目覚ましい進歩を遂げてきました。その中でも、生物学的製剤に続いて登場し、治療の選択肢を大きく広げたのが「JAK(ジャック)阻害薬」と呼ばれる新しいタイプの経口薬(飲み薬)です。生物学的製剤が注射や点滴で投与されるのに対し、JAK阻害薬は1日1回または2回の服用で済むため、自己注射の負担や通院の手間が軽減されるという大きなメリットがあります。この薬は、関節リウマチの炎症を引き起こす「サイトカイン」という物質の情報を細胞内に伝える「JAK(ヤヌスキナーゼ)」という酵素の働きをブロックすることで、炎症や痛みを強力に抑えます。その効果は生物学的製剤に匹敵するとされ、多くの患者さんにとって新たな希望となっています。では、気になるその費用はどのくらいなのでしょうか。JAK阻害薬も、生物学的製剤と同様に薬価が高く設定されているため、治療費は高額になります。3割負担の医療保険を利用した場合、薬剤の種類や用法・用量によって異なりますが、月々の薬剤費だけでおおよそ35,000円から45,000円程度が目安となります。これに加えて、診察料や定期的な検査費用がかかります。やはり、従来の抗リウマチ薬のみで治療する場合と比較すると、負担は大幅に増加します。しかし、ここでも心強い味方となるのが、これまで述べてきた「高額療養費制度」です。JAK阻害薬による治療も、この制度の対象となります。事前に「限度額適用認定証」を取得しておけば、医療機関の窓口での支払いは、所得に応じた自己負担限度額までとなります。例えば、一般的な所得の方であれば、月々の支払いは最終的に8万円台に、さらに勤務先の健康保険組合などに「付加給付制度」があれば、2万5000円程度にまで抑えることが可能です。飲み薬だからといって、注射薬である生物学的製剤と比べて費用が格段に安いわけではありません。治療法を選択する際には、それぞれの薬のメリット・デメリット(効果、副作用、投与方法など)を主治医とよく相談すると共に、費用面についても、高額療養費制度を利用した場合の最終的な自己負担額がいくらになるのかを具体的に確認することが非常に重要です。

  • お子様の便秘はまず小児科を訪ねて

    医療

    子供が何日も排便がなく、お腹が張って苦しそうにしている。いきんでも硬い便が少ししか出ず、時には泣き出してしまう。そんな我が子の姿を見るのは、親として非常につらいものです。大人の便秘とは異なり、子供の便秘には特有の原因や配慮すべき点が多く、どの診療科に連れて行くべきか迷う方も多いでしょう。このような時、ためらわずに選ぶべきは「小児科」です。子供の便秘の相談先として、小児科が最もふさわしい理由はいくつかあります。第一に、小児科医は「成長、発達の途上にある子供の体の特性を熟知している」専門家だからです。大人の消化管は完成されていますが、乳幼児の消化機能はまだ未熟です。また、排便という行為には、便意を感じ、いきんで肛門を緩めるという複雑な神経の連携が必要ですが、この機能も年齢と共に発達していきます。小児科医は、こうした子供の発達段階を理解した上で、その年齢に合った原因を探り、適切な診断を下すことができます。第二に、「薬の処方」における専門性です。子供の体はデリケートであり、大人と同じ薬を使うことはできません。小児科医は、子供の年齢や体重を正確に計算し、最も安全で効果的な薬を、適切な用量で処方する知識と経験を持っています。便秘薬にも様々な種類がありますが、子供に使用できるものは限られており、その選択と調整には専門的な判断が不可欠です。第三の理由は、「心理的な側面への配慮」です。子供の便秘の原因には、身体的な問題だけでなく、精神的な問題が深く関わっていることが少なくありません。例えば、トイレトレーニングの際に強く叱られた経験から、排便自体に恐怖心を抱いてしまったり、小学校に入学して、学校のトイレでは恥ずかしくて排便を我慢してしまったりすることが、慢性的な便秘の引き金になるケースは非常に多いのです。小児科医は、こうした子供の心の動きにも目を向け、親子関係や生活環境も含めた上で、総合的なアドバイスをしてくれます。子供の便秘は、単に薬で出すだけでは解決しません。体と心、そして生活習慣全体をトータルでケアしていく視点が必要であり、それら全てを網羅できるのが、子供の総合医である小児科なのです。

  • その症状を放置する本当の怖さとは

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    大きないびきや日中の眠気といった、睡眠時無呼吸症候群の症状。これらを「いつものこと」「体質だから仕方ない」と軽視し、放置してしまうと、その先には深刻な健康被害が待ち受けています。この病気の本当の怖さは、単に睡眠の質が低下することではなく、全身の様々な臓器にダメージを与え、命に関わるような重大な生活習慣病の引き金となる点にあるのです。睡眠中に呼吸が止まると、体は慢性的な「低酸素状態」に陥ります。この低酸素状態は、血管の内壁を傷つけ、動脈硬化を促進させる大きな原因となります。また、体は生命の危機を感じて交感神経を興奮させ、血圧や心拍数を上昇させます。この状態が一晩中繰り返されることで、心臓や血管には絶えず大きな負担がかかり続けるのです。その結果として、まず現れるのが「高血圧」です。睡眠時無呼吸症候群の患者さんは、高血圧を合併している割合が非常に高く、治療の難しい早朝高血圧の原因にもなります。そして、動脈硬化と高血圧は、さらに深刻な病気へと繋がっていきます。心臓に負担がかかり続けることで、「不整脈」や「狭心症」、「心筋梗塞」といった虚血性心疾患のリスクが著しく高まります。また、脳の血管にダメージが及べば、「脳梗塞」や「脳出血」といった脳卒中を引き起こす危険性も増大します。実際に、重症の睡眠時無呼吸症候群を未治療のまま放置すると、心血管系の病気で死亡するリスクが数倍に跳ね上がるというデータもあります。さらに、代謝にも悪影響を及ぼします。慢性的な低酸素状態は、血糖値を下げるインスリンの働きを悪くするため、「糖尿病」を発症しやすくなったり、既に糖尿病の人は血糖コントロールが悪化したりします。睡眠時無呼吸症候群は、単なるいびきの問題ではありません。それは、高血圧、心疾患、脳卒中、糖尿病といった、日本の死因の上位を占める病気の温床となる、静かでしかし確実に体を蝕んでいく「サイレントキラー」なのです。症状に心当たりがある場合は、将来の深刻な病気を予防するためにも、早期の検査と治療が不可欠です。

  • 症状でわかる便秘の適切な診療科

    医療

    便秘という一つの症状でも、その原因や伴う症状は人によって様々です。そして、その原因によっては、相談すべき最適な診療科が異なる場合があります。自分の症状をよく観察し、より適切な専門家を選ぶことで、診断と治療への道のりがスムーズになります。ここでは、症状に応じた診療科の選び分けについて解説します。まず、最も一般的な相談先は「消化器内科(胃腸科)」です。特に、「慢性的な便秘に長年悩んでいる」「市販薬が効かなくなってきた」「強い腹痛やお腹の張りを伴う」といった場合には、消化器の専門家である消化器内科が最適です。大腸の動きそのものに問題がある機能性の便秘なのか、あるいはポリープやがん、炎症など、器質的な問題が隠れていないかを判断し、必要であれば大腸内視鏡検査などの専門的な検査を行って原因を突き止めます。次に、排便時のつらい症状がある場合に検討したいのが「肛門科(肛門外科)」です。例えば、「便が硬くて出口で詰まって出せない」「排便時に強い痛みがある」「トイレットペーパーに血が付く」といった症状がある場合、その原因は肛門や直腸にある可能性が高いです。硬い便によって肛門が切れる切れ痔や、いきみによってできるいぼ痔などが、痛みによる排便への恐怖心を生み、便秘をさらに悪化させるという悪循環に陥っているケースは少なくありません。肛門科は、こうした肛門周囲のトラブルを専門的に診断、治療する科です。また、女性特有の悩みとして、「婦人科」が選択肢になることもあります。もし、便秘の症状が「月経周期と明らかに連動している」、あるいは「ひどい月経痛や下腹部痛を伴う」といった場合には、子宮筋腫や子宮内膜症といった病気が物理的に腸を圧迫し、便の通りを妨げていることがあります。このような場合は、婦人科での診察が不可欠です。最後に、ストレスとの関連が強い場合は「心療内科」への相談も視野に入ります。「強いストレスを感じると便秘になる」「旅行など、環境が変わると全く出なくなる」といった症状は、過敏性腸症候群の便秘型かもしれません。心療内科では、ストレス管理や自律神経を整えるアプローチで、腸の緊張を和らげる治療を行います。自分の症状を正しく見極め、適切な専門家を訪ねることが、効果的な治療への第一歩となるのです。

  • 診察がスムーズになる医師への伝え方

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    便秘の悩みで医療機関を受診した際、限られた診察時間の中で、いかに自分の症状を的確に、そして漏れなく医師に伝えられるかが、その後の正確な診断と効果的な治療に大きく影響します。しかし、いざ医師を前にすると、緊張してしまって言いたいことの半分も言えなかった、という経験がある方も多いのではないでしょうか。そこで、受診前に伝えるべき情報をあらかじめ整理し、メモにまとめて持参することをお勧めします。これにより、伝え忘れを防ぎ、診察を非常にスムーズに進めることができます。以下に、医師に伝えるべき情報のチェックリストを挙げますので、ぜひ参考にしてください。まず、最も重要なのが「便秘の経過と便の状態」です。いつから便秘か、排便の頻度は週に何回か、便の硬さや形はどのような感じか、便の色や量はどうか、排便時に強くいきむ必要があるか、などを具体的に説明できるようにしておきましょう。特に便の形は、言葉で説明するよりも、国際的な指標である「ブリストル便形状スケール」の図を参考にすると、医師と共通の認識を持ちやすくなります。次に、「便秘以外の体の症状」についても伝えましょう。腹痛やお腹の張りはあるか、ある場合はいつ、どのあたりが痛むか。排便後もスッキリしない残便感はあるか。排便時に肛門の痛みや出血はないか。吐き気や食欲不振、急な体重減少はないか。これらの情報は、重大な病気を見分けるための重要な手がかりとなります。さらに、「生活習慣や背景」に関する情報も、診断の重要なピースです。普段の食事内容、水分摂取量、運動習慣について。市販の便秘薬を使っている場合は、その種類と使用頻度。他に常用している薬やサプリメントの有無。これまでにかかった大きな病気や、家族に大腸がんなどの病気の人がいないかといった情報も大切です。女性の場合は、月経周期との関連性や、妊娠、出産の経験も伝えましょう。これらの情報を整理したメモは、あなたと医師をつなぐ、非常に強力なコミュニケーションツールとなります。良質な情報は、良質な診断と治療を生み出します。少しの準備が、長年のつらい便秘から解放されるための、大きな一歩となるのです。

  • 日中のだるさや頭痛も症状の一つ

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    睡眠時無呼吸症候群の影響は、夜間の睡眠中だけにとどまりません。むしろ、日中の生活の質を大きく損なう様々な症状となって現れることこそが、この病気の深刻な側面と言えるでしょう。最もよく知られている日中の症状は強烈な眠気ですが、それ以外にも、心身に多岐にわたる不調を引き起こします。その一つが、「起床時の頭痛」です。朝、目が覚めた時になぜか頭が重かったり、鈍い痛みが続いたりする経験はありませんか。これは、睡眠中に呼吸が止まることで、体内の二酸化炭素がうまく排出されずに溜まってしまい、脳の血管が拡張することが原因で起こると考えられています。通常、数時間で痛みは和らぎますが、毎朝のように繰り返される頭痛は、質の良い睡眠がとれていない明確な証拠です。また、「慢性的な倦怠感」や「疲労感」も多くの患者さんが訴える症状です。夜間に体が低酸素状態と覚醒を繰り返すことは、本人に自覚がなくても、体にとってはフルマラソンを走っているかのような大きな負担となります。そのため、どれだけ長く寝ても疲れが取れず、日中はずっと体がだるく、気力が湧かないという状態に陥ってしまいます。さらに、脳への影響も深刻です。慢性的な酸素不足は、脳の働きを低下させ、「集中力の低下」や「記憶力の悪化」を招きます。仕事や勉強の効率が落ちたり、物忘れが多くなったりするだけでなく、新しいことを覚えるのが困難になることもあります。こうしたパフォーマンスの低下は、本人の自信を喪失させ、精神的なストレスにも繋がります。実際、睡眠時無呼吸症候群の患者さんの中には、原因不明の「気分の落ち込み」や「イライラ」といった、うつ病に似た精神症状を呈する方も少なくありません。日中の様々な不調が、実は夜間の無呼吸に起因している可能性を理解し、その根本原因に対処することが、健やかな毎日を取り戻すための鍵となるのです。

  • 長引く咳や息苦しさ、喘息は何科へ?

    医療

    季節の変わり目や夜中、明け方になると、咳が止まらなくなったり、息をすると「ゼーゼー」「ヒューヒュー」という音がしたりする。少し動いただけでも息が切れてしまう。このような症状に心当たりがある場合、それは単なる風邪ではなく「気管支喘息」のサインかもしれません。いざ、このつらい症状を何とかしたいと病院へ行こうと思っても、多くの人が「一体、何科を受診すれば良いのだろう」という疑問に直面します。喘息の診療を専門とする診療科は、主に「呼吸器内科」と「アレルギー科」です。どちらの科でも喘息の診断と治療は可能ですが、それぞれの科に少しずつ特徴があります。まず「呼吸器内科」は、その名の通り、気管や気管支、肺といった呼吸器全般の病気を専門とするエキスパートです。喘息はもちろんのこと、咳や息切れの原因となる他の病気、例えばCOPD(慢性閉塞性肺疾患)や間質性肺炎、肺がんなどとの鑑別診断に長けています。特に、喫煙歴のある方や、中高年になってから初めて喘息のような症状が出てきた方は、他の呼吸器疾患の可能性も視野に入れて総合的に診てくれる呼吸器内科を受診するのがより安心です。一方で「アレルギー科」は、アレルギー反応によって引き起こされる様々な病気を専門とします。喘息の多くは、ホコリやダニ、花粉といったアレルゲンが引き金となって気道の炎症が起こるアレルギー性の疾患です。アレルギー科では、血液検査や皮膚テストなどでアレルギーの原因物質(アレルゲン)を特定し、そのアレルゲンを避けるための生活指導も含めた、より根本的なアプローチを得意としています。喘息以外にもアトピー性皮膚炎やアレルギー性鼻炎などを合併している方は、アレルギー科でトータルに診てもらうのが良いでしょう。結論として、どちらの科を受診しても専門的な治療は受けられます。まずは通いやすい方、あるいはかかりつけ医からの紹介がある方を選ぶと良いでしょう。大切なのは、自己判断で放置せず、専門医の診断を仰ぐことです。