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ある日突然のしびれ、私が手根管症候群と診断されるまで
それは、私がパソコン作業の多い部署に異動して半年ほど経った頃でした。朝、目覚めると、右手の指先、特に親指から中指にかけてがジンジンとしびれ、感覚が鈍いことに気づきました。まるで、正座の後に足がしびれる、あの嫌な感覚が指先で起きているようでした。最初は寝ている間に変な体勢で手を圧迫してしまったのだろうと軽く考えていました。しかし、そのしびれは日を追うごとに強くなり、特に夜中や明け方にひどくなるようになりました。痛みで目が覚めてしまい、手をブンブンと振ると少し楽になるのですが、またすぐにしびれが戻ってきます。日中も、キーボードを打つ指先の感覚が鈍く、ペットボトルのキャップを開けたり、シャツのボタンをかけたりといった、これまで何気なくできていた細かい作業が、妙にやりづらく感じられるようになりました。さすがに不安になり、インターネットで「指先、しびれ」と検索すると、脳の病気や重い病気の可能性ばかりが目に飛び込んできて、私の心は恐怖でいっぱいになりました。何科に行けばいいのかも分からず、とりあえず近所の内科に行きましたが、「様子を見ましょう」と言われるだけ。途方に暮れていた時、同僚から「整形外科に行ってみたら?」とアドバイスを受け、半信半疑で専門のクリニックを訪ねました。整形外科の医師は、私の話をじっくりと聞いた後、「どの指がしびれますか?小指はどうですか?」と尋ねました。私が「小指は全然しびれません」と答えると、医師は頷き、いくつかの診察を行いました。手首を叩くと指先に電気が走るような感覚があったり、手首を強く曲げたままにするとしびれが強まったりしました。そして医師から告げられた診断名は「手根管症候群」でした。脳の病気ではないと分かり、心から安堵したのを覚えています。治療として、夜間に手首を固定する装具をつけ、ビタミン剤を飲むことから始めました。それだけで、夜中の痛みは劇的に改善しました。あの時、勇気を出して整形外科を受診して本当に良かったと、今でも心から思います。
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胃腸炎が治らない、長引く下痢は何科へ?
ウイルス性の急性胃腸炎であれば、通常は数日から1週間程度で症状は自然に軽快していきます。しかし、2週間以上経っても下痢や腹痛がすっきりと治らない、あるいは一旦良くなったと思ったらまたぶり返す。そんな「長引く胃腸炎」に悩まされている場合、その背景には単なるウイルス感染ではない、別の原因が隠れている可能性があります。このような状況で相談すべき診療科は、「消化器内科(胃腸科)」です。消化器内科では、症状が長引く原因を特定するために、より詳しい問診や、必要に応じて血液検査、便検査、さらには内視鏡検査(胃カメラや大腸カメラ)といった専門的な検査を行います。長引く下痢の原因として、まず考えられるのが「感染後過敏性腸症候群(感染後IBS)」です。これは、ウイルスや細菌による胃腸炎が治った後も、腸が過敏な状態になってしまい、少しの刺激で腹痛や下痢、便秘といった症状が続いてしまう状態です。腸自体に炎症などの異常は見られませんが、生活の質を大きく損なうことがあります。また、胃腸炎の治療で服用した「抗生物質」が原因で、腸内細菌のバランスが崩れて下痢が長引く「薬剤性腸炎」も考えられます。特に、クロストリジウム・ディフィシル(CD)菌という悪玉菌が異常増殖すると、偽膜性腸炎という重篤な腸炎を引き起こすこともあります。さらに、見逃してはならないのが、前述の「炎症性腸疾患(IBD)」、すなわち潰瘍性大腸炎やクローン病といった慢性的な腸の病気です。これらの病気は、免疫システムの異常によって引き起こされ、下痢や血便、腹痛、体重減少といった症状が、良くなったり悪くなったりを繰り返しながら、長期にわたって続きます。これらは国の指定難病であり、専門医による継続的な治療と管理が必要です。その他にも、甲状腺機能亢進症などの内分泌系の病気や、特定の食物に対するアレルギー、ストレスなどが長引く下痢の原因となることもあります。たかが下痢と放置せず、症状が2週間以上続くようであれば、それは体が発している何らかのサインです。自己判断で市販の下痢止めを使い続けるのではなく、一度、消化器内科で根本的な原因を調べてもらうことが、つらい症状からの解放への第一歩となります。
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かかりつけ内科で片頭痛を相談する際の注意点
慢性的な片頭痛に悩んでいても、いきなり脳神経内科のような専門科を受診することに、少し敷居の高さを感じる方もいるかもしれません。そのような時、まずは普段から体調を相談している、かかりつけの内科医に話を聞いてもらうという選択は、決して間違いではありません。かかりつけ医は、あなたの全身の健康状態や既往歴を把握しており、地域医療の窓口として重要な役割を担っています。内科を受診すれば、まず丁寧な問診と診察が行われます。そして、頭痛の原因として考えられる他の全身性の病気、例えばコントロールされていない高血圧や、副鼻腔炎、あるいは何らかの感染症など、内科的な視点からのスクリーニングを行ってくれます。これは、重大な病気が隠れていないかを確認する上で非常に大切なプロセスです。診察の結果、緊張型頭痛や軽度の片頭痛と判断されれば、ロキソプロフェンやアセトアミノフェンといった、市販もされている一般的な鎮痛薬が処方されることが多いでしょう。これらの薬で症状が十分にコントロールでき、日常生活に大きな支障がないレベルであれば、かかりつけ医の元で治療を継続することも可能です。しかし、ここで注意すべき点があります。内科での治療には限界があることも理解しておく必要があります。市販薬や一般的な鎮痛薬では全く効果がない、あるいは薬の服用回数が増えてしまっているような中等度から重度の片頭痛の場合、より専門的な治療が必要です。片頭痛のメカニズムに特化して作用する「トリプタン製剤」や、近年登場した「CGRP関連抗体薬」といった新しい治療薬は、原則として頭痛診療に精通した専門医でなければ処方されません。また、発作の頻度自体を減らす「予防療法」というアプローチも、脳神経内科医ならではの専門的な視点です。もし、かかりつけの内科で処方された薬を飲んでも痛みが改善しない、あるいは頭痛の頻度が多くて生活の質が著しく低下していると感じる場合は、決して我慢せず、脳神経内科などの専門医への紹介状を書いてもらうようにお願いしましょう。かかりつけ医は、専門医療への橋渡し役も担っています。まずは身近な医師に相談し、そこから適切な専門家へと繋げてもらうことが、賢い医療機関のかかり方と言えるでしょう。
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まさか自分が無呼吸だなんて思わなかった
数年前まで、私は自分のことを健康そのものだと信じていました。しかし、今思えば、体はいくつもサインを送ってくれていたのです。当時、私が自覚していた唯一の症状は、日中のどうしようもない眠気でした。特に午後の会議では、自分の意志とは裏腹に、まぶたが重く垂れ下がってきて、上司の話が子守唄のように聞こえてしまうのです。何度かカクンと舟を漕いでしまい、そのたびに冷や汗をかきました。歳のせいか、仕事の疲れが溜まっているのだろう。そう軽く考えていました。そんな私の認識を根底から覆したのが、妻からの一言でした。「あなた、夜中に時々、息が止まっていてすごく心配なんだけど」。最初は冗談だろうと笑い飛ばしました。いびきがうるさいとは言われたことがありましたが、息が止まっているなんて、全く自覚がなかったからです。しかし、妻は真剣でした。ガーガーと大きないびきが突然静かになり、十数秒も無音の状態が続いたかと思うと、「グガッ」と、まるで溺れた人が息を吹き返すような、苦しそうな呼吸で再びいびきが始まるのだと言います。その様子をスマートフォンで録画して見せられた時、私は言葉を失いました。そこに映っていたのは、安らかに眠っているとは到底言えない、苦しそうな自分の姿でした。これはただ事ではないかもしれない。妻に強く勧められ、私はしぶしぶ専門のクリニックを受診しました。自宅でできる簡易検査を受けた結果、睡眠時無呼吸症候群、それも重症だと診断されました。診断が確定した時はショックでしたが、同時に、長年悩まされてきた日中の眠気や起床時の頭痛の原因がようやく分かったという安堵感もありました。治療としてCPAP(シーパップ)という機械を使い始めてから、私の生活は一変しました。夜はぐっすりと眠れ、朝はスッキリと目覚めることができます。日中の眠気も嘘のようになくなり、仕事にも集中できるようになりました。今、私が心から思うのは、家族の指摘に耳を傾けて本当に良かったということです。もしあのまま放置していたらと思うと、ぞっとします。
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総合内科や一般内科で喘息は診てもらえるか
長引く咳や息切れを感じた時、多くの人がまず最初に足を運ぶのは、身近な「総合内科」や「一般内科」のクリニックかもしれません。専門の呼吸器内科やアレルギー科が近くになかったり、どこを受診すれば良いか分からなかったりする場合、かかりつけの内科医に相談するのは、ごく自然な流れです。では、これらの内科で喘息の診療は可能なのでしょうか。結論から言えば、軽症の喘息や、診断が比較的容易な典型的なケースであれば、多くの内科医が初期対応や継続的な治療を行うことが可能です。内科医は、プライマリ・ケア(初期医療)の専門家として、幅広い疾患に関する知識を持っています。問診や聴診で喘息が疑われれば、気管支拡張薬や吸入ステロイド薬を処方し、症状の改善を図ります。喘息の治療ガイドラインも広く普及しており、多くの内科医がそれに沿った標準的な治療を提供してくれます。かかりつけ医であれば、あなたの既往歴やアレルギー歴、生活背景などを把握しているため、総合的な観点から診療を進めてくれるというメリットもあります。しかし、内科での治療には限界があることも理解しておく必要があります。例えば、症状が重症であったり、様々な治療薬を試しても症状が十分にコントロールできなかったりする「難治性喘息」の場合や、喘息と他の呼吸器疾患との鑑別が難しい複雑なケースでは、より専門的な知識と経験、そして高度な検査機器が必要となります。呼吸機能検査の詳細な解析や、喀痰中の好酸球測定、呼気NO(一酸化窒素)濃度測定といった専門的な検査は、呼吸器内科やアレルギー科でなければ実施できないことがほとんどです。したがって、かかりつけの内科で治療を受けていても、「症状がなかなか改善しない」「発作を繰り返してしまう」「より専門的な検査を受けて原因を詳しく知りたい」と感じた場合は、遠慮なく専門医への紹介状を書いてもらうようにお願いしましょう。かかりつけの内科医は、専門医療へのゲートキーパー(門番)としての重要な役割も担っています。まずは身近な内科で相談し、必要に応じて専門医へと繋げてもらう。これもまた、喘息という病気と上手く付き合っていくための、賢い医療機関のかかり方の一つなのです。
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突然の嘔吐と下痢、胃腸炎は何科へ行くべき?
ある日突然、激しい吐き気と腹痛に襲われ、トイレから離れられなくなるほどのひどい下痢が始まる。多くの人が一度は経験したことのある、この辛い症状の正体は、多くの場合「感染性胃腸炎」です。ウイルスや細菌が消化管に感染することで引き起こされるこの病気は、特に冬場にはノロウイルス、夏場には細菌性のものが猛威を振るいます。いざ、このような症状に見舞われた時、あまりの辛さに「病院へ行きたいけれど、一体、何科を受診すれば良いのだろう」と迷ってしまう方は少なくないでしょう。風邪のように内科なのか、お腹の専門である胃腸科なのか、あるいは他の科なのか。このような急性の胃腸炎で、まず最初に受診を検討すべき診療科は「内科」あるいは「消化器内科(胃腸科)」です。どちらの科でも、胃腸炎の基本的な診断と治療は可能です。近所にかかりつけの内科があれば、まずはそこへ相談するのが最も手軽で迅速な選択肢と言えるでしょう。内科医は、問診を通じて症状の始まった時期や食事の内容、周囲での流行状況などを聞き取り、胃腸炎の診断を下します。そして、脱水症状を防ぐための水分補給の指導や、症状を和らげるための整腸剤、吐き気止め、解熱剤などを処方してくれます。一方で、「消化器内科」や「胃腸科」は、その名の通り食道・胃・腸といった消化器全般を専門とするエキスパートです。より専門的な視点から診療を行ってくれるため、症状が非常に重い場合や、下痢に血液が混じる(血便)など、通常の胃腸炎とは異なる危険なサインが見られる場合には、より適切な対応が期待できます。また、胃腸炎の症状が長引く場合や、何度も繰り返すような場合には、背景にクローン病や潰瘍性大腸炎といった他の病気が隠れている可能性も考えられるため、専門的な検査ができる消化器内科の受診が推奨されます。結論として、急な胃腸炎であれば、まずはアクセスしやすい内科で十分対応可能です。しかし、症状に不安な点がある場合や、より専門的な診療を希望する場合には、消化器内科(胃腸科)を選ぶと、さらに安心できるでしょう。
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これは危険!ただの便秘ではない警告サイン
便秘は非常にありふれた症状であるため、多くの人が「いつものこと」と軽視しがちです。しかし、その背景には、放置すると命に関わるような、重大な病気が隠れている可能性があります。いつもの便秘とは明らかに違う、「危険なサイン」を見逃さないことは、自分自身の健康を守る上で極めて重要です。以下に挙げるような症状が便秘と共に見られた場合は、自己判断で様子を見るのではなく、直ちに医療機関を受診してください。最も緊急性の高い危険なサインは、「激しい腹痛」と「嘔吐」を伴う場合です。便もガスも全く出ず、お腹がパンパンに張ってきて、耐えられないほどの激痛や吐き気が続く。このような症状は、腸がねじれたり、何らかの原因で塞がってしまったりする「腸閉塞(イレウス)」を強く疑います。腸閉塞は、腸の組織が壊死してしまう危険があり、緊急手術が必要となるケースも少なくない、一刻を争う状態です。次に、注意すべきは「便に血が混じる(血便)」ことです。排便後に便器が真っ赤に染まるような鮮やかな出血や、イチゴジャムのような粘液と血液が混じった便、あるいは黒いタール状の便が出る場合は、消化管のどこかで出血が起きています。その原因として、「大腸がん」やポリープ、大腸憩室からの出血、あるいは「炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎など)」といった病気が考えられます。特に、黒い便は胃や十二指腸など、上部消化管からの出血を示唆しており、こちらも緊急の検査が必要です。また、「原因不明の急激な体重減少」も、見過ごしてはならない重要なサインです。便秘と共に、ここ数ヶ月で食事制限もしていないのに体重が著しく減ってきたという場合、大腸がんなどの悪性疾患が体の栄養を奪っている可能性があります。さらに、「便が急に鉛筆のように細くなった」という変化も、大腸がんなどによって腸の内腔が狭くなっている可能性を示すサインです。これらの危険な症状がある場合に受診すべきは、「救急外来」あるいは「消化器内科、消化器外科」です。特に、激しい腹痛や嘔吐がある場合は、ためらわずに救急車の要請を検討してください。「いつもの便秘とは何かが違う」という、あなた自身の直感は非常に大切です。その体の警告信号を無視せず、迅速に行動することが、最悪の事態を防ぐための鍵となります。
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指先のしびれはまず整形外科を受診しよう
指先がジンジン、ピリピリとしびれる。ペンが持ちにくい、ボタンがかけづらい。そんな不快な症状が続いた時、多くの人が「何かの病気だろうか」「病院へ行くべきだろうか」と不安に思うと同時に、「一体、何科へ行けば良いのだろう」という大きな疑問に直面します。このような指先のしびれで最初に受診を検討すべき診療科は、ずばり「整形外科」です。なぜなら、指先のしびれの多くは、首から指先までの神経が、骨や靭帯、筋肉などによって物理的に圧迫されることで引き起こされるからです。整形外科は、骨、関節、筋肉、そしてそれらの周りを走る末梢神経の病気を専門とするエキスパートです。問診で、どの指がいつからしびれるのか、どのような動作で症状が悪化するのかなどを詳しく聞き取り、レントゲン検査や神経伝達速度検査といった専門的な検査を通じて、神経がどこで圧迫されているのかを突き止めていきます。例えば、手首で神経が圧迫される「手根管症候群」や、肘で圧迫される「肘部管症候群」、あるいは首の骨(頚椎)の変形が原因で起こる「頚椎症」などが、整形外科で扱われる代表的な疾患です。もちろん、指先のしびれの原因はこれだけではありません。脳梗塞のような緊急性の高い病気や、糖尿病などの内科的な病気が隠れている可能性もゼロではありません。しかし、ろれつが回らない、片側の手足に力が入らないといった明らかな麻痺症状がなく、しびれが徐々に現れてきたような場合は、まずは整形外科の扉を叩くのが最も効率的で確実な第一歩と言えます。そこで専門的な診察を受け、「首から手にかけての神経に異常はない」ということが確認できれば、次に他の診療科を検討するというステップを踏むことで、無用な心配や診療科のたらい回しを防ぐことができるのです。